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EMGマーク7をメインとした蓄音器ミュージアム

EMGのサウンドボックスを使用した ダイアフラムの厚さの違いによる周波数特性の変化について

【はじめに】

EMGのサウンドボックスに使用されているダイアフラムの厚さはオリジナルが0.10mmのようです。この厚さがどのようにして決まったのかと云う資料がどこにも見当たりません。そこでこの厚さをもっと薄くしたら音はどう変わるのか、もっと厚くしたら音はどう変わるのか、オリジナルの0.10mmの厚さで本当に良いのかと云う疑問が湧きました。たまたま私の中学時代の同級生で金属加工の会社(ノアテック株式会社)を立ち上げ私も監査役として関わっている会社に、ダイアフラムを作ることを持ちかけました。そして直ぐに杉崎信さんにダイアフラムを作ることを電話で連絡しましたら、なんとその日の内に杉崎さんはEMGのオリジナルのダイアフラムを持って来てくださり、これと同じ物を作って欲しいと言われました。金型を造るのに8か月位かかりましたが、この日から私の音響学における楽しい研究がまたスタートしました。

【使用したEMGのサウンドボックス】

EMGのサウンドボックスには大きく分けて4種類、存在するようです。(写真―1)2枚板バネ付きナイフエッジと4枚板バネ付きナイフエッジ、ダイアフラムの直径が48mmと44mm。今回の実験に使用したサウンドボックスは2枚板バネでダイアフラムの直径が44mmのものです。(写真―2)













【ダイアフラムの作製】

オリジナルのダイアフラムを参考にして、同じ形になるような雄、雌の金型を作製(写真―3)し旋盤に装着(写真―4)、回転しながら徐々に圧力をかけ、EMGのオリジナルに近い形状のダイアフラムを作製しました。(写真―5)



【実験に使用したダイアフラムの材質と厚さについて】

今回使用したダイアフラムの材質は純アルミで純度99.3%以上のものを使用しました。また厚さは0.36mm、0.07mm、0.08mm、0.10mm、0.12mmの5種類の厚さの物を使用しました。またアルミ材は全て焼鈍しの状態の物を使用しました。(焼き入れたアルミ材と焼鈍したアルミ材の周波数特性の違いについては次回にでも発表します)

【測定条件】

サウンドボックスを裏返すとバックプレートの部分に3か所のネジが見えます。(写真―6)この3か所のネジを外すと裏蓋が開き、ダイアフラムの交換が出来るようになっています。従ってダイアフラムを交換するためには、このネジを毎回外さなくてはなりません。しかし、このネジは強く締めると、ダイアフラムを支えているゴムダンパーに圧力が掛かり、ダイアフラムの振動にも影響を及ぼします、逆もしかりです。今回の実験では、ダイアフラムを毎回、交換しなくてはならず、この3か所のネジも毎回動かさなくてはなりません。ネジの締め具合の違いで周波数特性が2〜3dBも変化するようではこの実験は成立しません。そこで基礎実験として、このネジの位置が0度から360度、−360度動いた時の周波数特性を測定する必要性が出てきました。  また、この全ての実験で使用する針は鉄針で太さは直径1.57mmを使用、針圧は100gで統一しました。即ちダイアフラムの厚さだけが異なり、他は全て同じと云う条件を設定しました。


【サウンドボックスの裏蓋の3か所のネジを360度〜−360度、即ちネジを2周り分動かした時の周波数特性の変化について】

3か所のネジは共に緩過ぎず、硬過ぎずの位置をニュートラル(0度)とし、次に3か所のネジを共に一回り360度締めたとき、次にニュートラルからー360度緩めた時の3種類の周波数特性を測定しました。(図−1)この図から3つの周波数は略一致していることが分かります。即ち全周波数において誤差は1dB以下と云うことです。これがもし5dBも音が変化するようでは、ネジの位置もピタリと合わせなくてはなりません。今回の実験ではネジは2回り以内であれば周波数特性にはそれ程影響を与えないと云うことで、この実験が実現出来ました。だからと云ってこのネジの位置は適当で良いと云う訳では決してありません。この1dB以下の周波数特性で測定出来ないほど微妙な音の変化は最後に生の耳で音を聞きながら微調整を行っていく最も大事な調整になるのです。1dB以下で周波数特性では差が出ない部分のために、なかなか研究が進まない分野なのですが私はこの部分をしっかりと微調整した蓄音機はその性能を最大限に発揮出来るものになると確信しています。私は今から約40年前にはこの分野で仕事をしておりました。とは云え、今回の実験では、ネジの位置も出来る限り同じ締め具合になることを心掛けました。

【測定結果】

図―2にはダイアフラムの厚さが0.06mmの時の周波数特性を示しました。この図を見ると、1KHzをピークに高音域がスキースロープのように急斜面で下降しています。3KHzでは75dBSPLの音圧しか出ていません。このダイアフラムで音楽を聞くと腰が無い為、少し大きな音になると音ビレが起きてしまい、この薄さでは、とても使用出来るものではありませんでした。  図―3はダイアフラムの厚さが0.07mmの時の周波数特性です。3KHzでは80dBSPLで先程と比較すると約5dB高音域が出ています、また音ビレはそれほど気にならなくなりましたが、しかしまだ高音域が不足でマイカで聞いているような音の感じでした。  図―4はダイアフラムの厚さが0.08mmのものです。3KHzで86dBSPLの音が出ており、音ビレもなく高音域が不足していると云う感じもしません。充分に聞くことが出来る音です。EMGのサウンドボックスにはこの0.08mmの厚さを使用しているものも見受けられます。 図―5はダイアフラムの厚さが0.10mmのもので、EMGサウンドボックスのオリジナルに付いている厚さです。3KHzでは94dBSPLも出ており音楽的にも申し分ない音と言えます。ここまでの結果から分かることは、ダイアフラムの厚さが0.01mmずつ増える毎に3KHzの音が約5dBずつ増加していることです。即ちダイアフラムの厚さを厚くしていくと、高音域、特に3KHzがそれに比例して増加していくと云う結果でした。増加幅は約20dBもありました。次に500Hzに注目して下さい。厚さが0.06mmでは80dBSPL,厚さが0.07mmでは85dBSPL、厚さが0.08mm86dBSPL,厚さが0.10mmでは90dBSPLとなっており、低音域500Hzも厚さに比例して増加しているのが分かります。増加幅は約10dBです。 図―6はダイアフラムの厚さが0.12mmの時の周波数特性です。流石にこの厚さになると高音域が落ちて来ます。0.10mmの厚さで3KHzが94dBSPL出ていましたが、0.12mmでは90dBSPLと約4dB音が小さくなっています。アルミ板が厚くなるので、高音域のように速い振動に追従出来なくなったことが当然考えられます。しかし500Hzに注目すると0.10mmの厚さでは90dBSPLの音の大きさでしたが、0.12mmの厚さでは94dBSPLと更に4dBも音が大きくなっていることが分かります。

【考察】

ダイアフラムを薄くすれば、質量が軽くなるので高音域が出ると期待して実験に挑みましたが、結果は私の想像を全く覆す結果でした。やはり実験に勝るものは無いと言ったところです。40年以上も音の実験をして学会に発表して来ましたが、こんなに予想と異なった実験は久々です。私にとっても大変利益ある実験となりました。高音域を出すためには振動板の厚さを厚くしていく必要がある、しかしそのピークは厚さが0.10mmであること。また500Hz以下の低音域は振動板の厚さを厚くすればする程に音は大きくなっていくと云う結果でした。そこでEMG推薦のダイアフラムの厚さが0.10mmと自作の0.12mmとで音楽を聴いて比較してみました。この辺になると当然好みの領域になりますが、私にとっては500Hzの出力が出た方が、音がふくよかで心地よい音に聞こえます。今では好んで0.12mmの厚さのダイアフラムで蓄音機を聞いています。

【おわりに】

今回はダイアフラムの直径が44mmで実験しましたが、EMGエキスパートのサウンドボックスで使用されている直径が48mmのダイアフラムでも同じ実験を予定しています。蓄音機の分野ではダイアフラムの厚さを変化させた時の周波数特性を測定した結果が未だ発表されていないようでしたので、私がやってみたい実験の一つでした。今回の実験結果が何かの参考になれば幸いです。また今後、このような音響実験を続けて発表して行く予定です、乞うご期待下さい。

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